映画「ブーメラン」について
ブラックムービーが市民権を得て、たくさんの映画やサントラアルバムが発売されるようになった90年代初頭。92年にそれまでとはちょっと毛色が違う映画が登場、それがこのブーメラン。貧困や暴力が描かれる作品が多かった中、恋愛コメディというジャンルで、しかも主人公の役どころが企業の重役。今までとはまるで正反対の設定。
その主人公に既に人気者だったエディ・マーフィーが出演してるってところもそれまでと違う。それまでのブラックムービーって有名な俳優を起用することがあんまりなかった、というか黒人の有名な俳優があんまりいなかったのかもしれない。
映画だけじゃなく、サントラも今までとは一味違う。当時のブラックミュージックを席巻していたプロデューサーチームといえば、L.A.&ベイビーフェイス。彼らのレーベル、LaFaceから初のサントラとしてリリースされたんだけど、プロデューサー色が全面に出されたサントラなんてそれまでは存在してなかった。
映画もサントラも話題になることが多く、相乗効果もあってか共に大成功。映画からはハル・ベリーがブレイク、サントラからはボーイズ・Ⅱ・メンの曲が大ヒットして、エディ・マーフィーもL.A.&ベイビーフェイスも面目躍如って感じ。
映画を見るまでブーメランってタイトルが謎だったんだけど、”因果応報”と”元サヤに戻る”って意味かと把握。予測がつく内容の映画なんだけど楽しい。見どころはエディ・マーフィーの喘ぎっぷりと、ハル・ベリーが超絶に可愛いところ。それとブラックムービーのレジェンド監督、メルヴィン・ヴァン・ピーブルズがチョイ役(乳首判定おじさん)だけど存在感たっぷりに出演してるところも個人的に好き。
サウンドトラックについて
サントラはR&Bチャートで当然1位、全米チャートでも4位という大健闘。トリプルプラチナ認定されて、6枚ものシングルがリリースされた超大ヒットアルバム。中でもボーイズ・Ⅱ・メンのエンド・オブ・ザ・ロードが、当時プレスリーが持っていた11週連続1位の記録を塗り替えたことで話題になってた。
同時期にL.A.&ベイビーフェイスのライバルチーム、ジャム&ルイスも自分たちのレーベルからサントラアルバムをリリースしててこちらも話題に。きっと偶然なんかじゃなく戦略的に同じタイミングにしたんだろうな、なんて思う。
とにかく参加アーティストが豪華、歌モノ好きにはたまらないアーティスト達ばかり。「サントラなんて呼んじゃもったいない!超豪華アーティストが夢の競演‼主演のエディ・マーフィーもビックリ‼」っていうのが国内盤の帯のコメントで、ちょっと笑えるけど納得。
映画音楽を担当したのはマーカス・ミラー。ベーシストとして有名なマーカス・ミラーだけど、映画音楽にもたくさん携わってる。自分のアルバム出したり、ルーサー・ヴァンドロスのプロデュースしたり、そんな忙しい中で90年代は7本の映画を担当。近年もそんなペースで精力的に活動してるレジェンド、すごい。
トラックリスト
- BABYFACE (FEATURING TONI BRAXTON)
GIVE YOU MY HEART - AARON HALL (FEATURING CHARLIE WILSON)
IT’S GONNA BE ALRIGHT - KEITH WASHINGTON
TONIGHT IS RIGHT - P.M.DAWN
I’D DIE WITHOUT YOU - GRACE JONES
7 DAY WEEKEND - BOYZ II MEN
END OF THE ROAD - THE LAFACE CARTEL
REVERSAL OF A DOG - TONI BRAXTON
LOVE SHOULDA BROUGHT YOU HOME - JOHNNY GILL
THERE U GO - SHANICE
DON’T WANNA LOVE YOU - KENNY VAUGHAN & “THE ART OF LOVE”
FEELS LIKE HEAVEN - A TRIBE CALLED QUEST
HOT SEX
トラックリスト詳細
①GIVE YOU MY HEART
本アルバムからの第一弾シングル
トニー・ブラクストンのお披露目を兼ねた、ベイビーフェイスの久しぶりの新曲だった①。キャリン・ホワイトやペブルスもそうだったけど、ベイビーフェイスって女性デュエットがとても上手。最近も女性アーティストだけをゲストに招いたアルバムをリリースしてたけど、そのあたりの人選も上手なベイビーフェイス。その後のトニー・ブラクストンの活躍も凄かったよね。
②IT’S GONNA BE ALRIGHT
サントラならではのコラボ
血縁関係疑惑があったらしいガイのアーロン・ホールとギャップ・バンドのチャーリー・ウィルソン、それくらい声質がそっくりな二人。ちょっと冗談なんじゃないかと思うような、そんな夢のコラボが実現。二人の声が高らかに響くニュージャックスイングなカッコいい曲、こういうのがあるからサントラは楽しい。
③TONIGHT IS RIGHT ⑥END OF THE ROAD ⑨THERE U GO
ベイビーフェイスお得意のバラード
個人的に大好きなシンガーのキース・ワシントン、その彼がベイビーフェイス作のバラードを歌った③。男性版アニタ・ベイカーなんて言われてるくらいなんでバラードは得意な彼、当然ベイビーフェイスとの相性も抜群。ベイビーフェイスのプロデュースでアルバムも作って欲しかったなー。
それまでの人気にダメ押しした感のあるボーイズ・Ⅱ・メンの⑥、全米チャート13週連続1位の記録を樹立した曲。グラミー賞やソウルトレインアワードなどにも当然ノミネート&受賞してた。映画では悲しいシーンで流れるけど、そういえば悲しい歌詞だったよななんて思い出す。なんか甘いラブソングなイメージだけど、しっかりフラれてる歌だよね。
サントラでバラードといえばこのアーティスト、そんな感じにサントラ御用達になってるジョニー・ギルの⑨。「My, My, My」でベイビーフェイスとの相性の良さは証明済み、この曲も感情たっぷりな全盛期の歌声を披露してる。この3曲を聴くためにアルバムを買ったんだよなーなんて思い出した。
⑧LOVE SHOULDA BROUGHT YOU HOME ⑩DON’T WANNA LOVE YOU
ベイビーフェイスのポップなテイストが溢れる曲
トニー・ブラクストンのソロ名義の曲もちゃんと収録されてる⑧。曲はポップだけど歌声は熱い、ちょっとアンバランスな感じ。マーケティング的にポップな路線にしたんだろうか、その後の彼女のソロアルバムはもう少しR&B寄りになってるからそこから軌道修正したんだろうか、なんて色々勝手に想像。
同じポップ路線の曲だけど、しっかり自分らしく歌ってるシャニースの⑩。14歳でデビューしてるシャニース、こなしてる場数が違うのか、はたまた「I Love Your Smile」のヒットに自信をつけたのか、とにかく良い歌いっぷり。サントラのシャニースと言えば、ビバリーヒルズ高校白書の「Saving Forever for You」も名曲。
⑦REVERSAL OF A DOG
オールスター参加ユニット
この頃からサントラアルバム限定で複数アーティストが参加してるユニットが登場するようになる。このアルバムでは⑦がそれで、ユニット名はザ・LAFACEカルテル。メンバーは、ダミアン・デイム、TLC、トニー・ブラクストン、ハイランド・プレイス・モブスターズ(ダラス・オースティンが所属してるグループ)といったLAFACEレーベル所属のアーティスト達。L.A.&ベイビーフェイスが作るニュージャックスイングって感じの曲、久しぶりに聴いたらなかなか良かった。
⑪FEELS LIKE HEAVEN
アルバム中唯一の無名アーティスト
アーティスト名を見るとグループっぽいけど、おそらく一人ユニット。コーラスグループ風の曲だけど、クレジットを見ると山下達郎みたいに一人アカペラの可能性が高い。ハウスパーティのサントラにも参加してたけど、そっちの曲は全然違う雰囲気だったし。なんせ情報が全然ないアーティストなので詳細は諸々不明。
⑤7 DAY WEEKEND
映画にも出演してるグレイス・ジョーンズ
本人のパロディみたいな役で(ストレンジなんて役名までつけられてる)出演してるグレイス・ジョーンズ。なんかイロモノみたいな扱いになってるけど、昔からモデルや歌手として活躍しててアンディ・ウォーホルのミューズを務めたこともあるスゴイ人。ガチガチのニュージャックスイングをグレイス・ジョーンズ風味にプロデュース、さすがダラス・オースティン。
④I’D DIE WITHOUT YOU ⑫HOT SEX
ヒップホップ勢も参加
「Set Adrift on Memory Bliss」が有名なP.M.ドーン、その路線を真っ直ぐ突き進むような④。一応ラップグループなんだけどそこそこ歌える彼ら、アルバムの雰囲気に合わせるようにラップなしの曲でサントラ参加。ヒップホップのかけらも感じないけどシングルカットされて、「Set Adrift on Memory Bliss」以来の全米チャート3位のヒット曲となる。
最後に登場するのはア・トライブ・コールド・クエストの⑫。ミニマルなトラックで超カッコいいんだけど、ポップな曲で構成されてるアルバムだからちょっと浮いた感じがしちゃう。ルー・ドナルドソンの「Who’s Making Love」をサンプリング。曲タイトルに合わせる感じで、ミュージックビデオには映画のセクシーな場面が多め。撮影中にQティップが目を怪我したらしく、急に映画のデッドプレジデントみたいなマスクをして登場するからびっくりする。
最後に
言わずもがなだけど、アルバムの曲の多くはL.A.&ベイビーフェイスのプロデュース。当時の彼らの勢いだったり、方向性だったりが良く分かるアーカイブ的アルバム。ベイビーフェイスひとりでプロデュースした曲より、L.A.と一緒に作ってた作品のほうが、時代背景もあるかもしれないけど、トラックのビートが強くて個人的に好き。リマスターしてのリイシュー、叶わないかしら。
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