映画「ソウル・フード」について
日本でもすっかり定着したソウルフードって言葉、郷土料理とか地元の味みたいな意味で使われてるけど全然違う。アメリカ南部の黒人の伝統的な料理、って説明でもちょっと足りない。奴隷として連れてこられた黒人が、食事として与えられていた白人達の食べ残しを、いかに美味しく食べるか工夫して発展してきた料理って言われてる。そういった歴史や文化を鑑みると、日本でのライトな感じの使い方に違和感を覚える人も多いみたい。
そんなソウルフードを軸として、家族の絆を描いた作品が映画「ソウル・フード」。後にシーズン5まで続いたスピンオフのテレビシリーズも作られるくらい人気があって、批評家からの評価も高い作品。続編の映画も作られる話も出たみたいだけど、今のところ頓挫してる様子。
我らが歌姫ヴァネッサ・L・ウィリアムズ(ヴァネッサ・A・ウィリアムズって女優さんもいる)や、映画「セット・イット・オフ」のヴィヴィカ・A・フォックス、それと映画「ボーイズン・ザ・フッド」でメジャーになったニア・ロングといった豪華な女優陣がキャスティングされてる。会えばいつも喧嘩ばっかりしちゃう、こんな感じの姉妹っていそうだよなーなんて思った。
男性陣で気になるのは、マイケル・ビーチとジェフリー・D・サムズ、それと子役のブランドン・ハモンド。この3人は、これまたベイビーフェイスがサントラを担当した映画「ため息つかせて」にも出演してる。で、マイケル・ビーチはここでも浮気する男を演じてて何だか損な役回り。そのマイケルの息子役を演じたのがブランドン・ハモンド。ちなみにブランドンは映画「スペース・ジャム」で幼いマイケル・ジョーダンも演じてる。
あともう一人言っておきたい俳優さんが、ニア・ロング演じるバードの夫レムを演じたメキ・ファイファー。海外ドラマ好きの人なら「ER」で見たことある顔だと思う。それとこっちの方がピンとくる人多そうだけど、映画「8マイル」でエミネムの相棒役をドレッドヘアーで演じてる(「Lose Yourself」に”メキ・ファイファーはいない”って歌詞もある)。
サウンドトラックについて
ベイビーフェイスの奥さんのトレイシーが作った制作会社、エドモンズ・エンターテインメントからの第一弾映画の本作(ベイビーフェイスとトレイシーの共同プロデュース)。なのでベイビーフェイスがサントラを手掛けるのは当然といったところ。映画同様にアルバムも例によって大ヒット、全米チャートは4位でR&Bチャートでは1位。サントラにありがちな新人アーティストのお披露目的な感じも少なく、映画にもちゃんと使われてる曲が収められてる。この頃は商業目的丸出しのサントラが多かった中で、珍しく正統派のアルバム。
ベイビーフェイスがプロデュースしたのが7曲、それ以外は当時人気のあったプロデューサーたちによるもの。そのプロデューサーたちの何と豪華なことか。ベイビーフェイスともなると、やっぱり他のサントラとはお金のかけかたが違うのかしら。ってか半分は自分で作ってるからお金はかからないのかな。わたしみたいにそんな余計な事は考えないで、ベイビーフェイスお得意の美メロ曲たちを楽しんでほしい。
ベイビーフェイスの曲は演奏メンバーも豪華。ベースはフォープレイでお馴染みの、歌も上手なネイザン・イーストで、ピアノはクインシー・ジョーンズ一派で、マイケル・ジャクソンやエリック・クラプトンと深いかかわりのあるグレッグ・フィリンゲインズといった手練れミュージシャンが参加。プログラミングはベイビーフェイスの作品に多数参加してるランディ・ウォーカーで、実は映画にもちらっと登場してる。
映画音楽を担当したのはウェンディ・メルヴォインとリサ・コールマン、プリンスが好きな人には馴染みのある二人。プリンス&ザ・レボリューションのメンバーで、ウェンディ&リサ名義でアルバムもリリースしてる。そんな二人で映画音楽を担当することもあって、サントラもヒットした映画「デンジャラス・マインド/卒業の日まで」の音楽も彼女たちが手掛けてる。
トラックリスト
- Boyz II Men A Song For Mama
- BLACKstreet (featuring Jay-Z) Call Me
- Milestone I Care ‘Bout You
- Total What About Us
- Puff Daddy (featuring Lil’ Kim) Don’t Stop What You’re Doing
- Dru Hill We’re Not Making Love No More
- Tenderoni Baby It
- Xscape Let’s Do It Again
- OutKast (with Cee-Lo) In Due time
- Monica & Usher Slow Jam
- Tony Toni Toné Boys and Girls
- En Vogue You Are The Man
- Earth Wind & Fire September
トラックリスト詳細
①A Song For Mama
映画のオープニングに流れるテーマ曲
個人的にボーイズ・Ⅱ・メンの曲で一番好きな①、プロデュースはベイビーフェイス。”loving you is like food for my soul”って歌詞はちょっと泣ける、なんか親孝行したくなる曲。残念ながらこの曲が最後のトップ10ヒット(最高7位)。これ以降、メンバーの脱退があったりメジャーレーベルでの契約が切れたりして、輝かしい時代は終わりを告げる。それを思うとより泣ける。
②Call Me
リミックスだけどタイトルまで変わってしまった曲
テディ・ライリー率いるブラック・ストリートのシングル曲「Fix」、そのリミックスヴァージョンの②。「Fix」がシングルカットの際に、アルバムヴァージョンとは全然違うリミックスになってるんだけど、今回もまた別ヴァージョンのリミックスが施されてる。更にジェイ・Zが参加して、タイトルが変わって、サビまで変わってるから、ちょっとした別の曲になってる。
③I Care ‘Bout You
映画にも登場するスペシャルユニット
映画の登場人物の浮気しちゃう男、マイルスが組む音楽ユニットが③のマイルストーン。何の前情報もなく映画を観たので、メンバーが本編に登場した時はびっくりした(ひとりでめちゃ歓喜してた)。ケイ・シーとジョジョのヘイリー兄弟と、ベイビーフェイスとケヴォン、メルヴィンのエドモンズ兄弟の豪華な兄弟コラボ。後半のジョジョとケヴォンの掛け合いのところなんて鳥肌立っちゃう。ミュージックビデオではメンバーが色んな額縁に入って歌ってる(何言ってるか分からないと思うけどそうなの)。この名義でアルバム作ってほしかったなマジで。
④What About Us ⑦Baby It ⑧Let’s Do It Again ⑫You Are The Man
女性コーラスグループが4組も参加
まずはリードシングルとしてリリースされたトータルの④。ミッシー・エリオットと一緒に客演してるティンバランドがプロデュースも担当。客演と言っても二人ともブツブツ何か言ってるだけなので、フィーチャリング表記なし。パフ・ダディのバッド・ボーイ・レコードの所属してて、ティンバランドのプロデュース作品で、ベイビーフェイスが手掛けたサントラに参加する、ってなんかすごいね。
テンダーロニの⑦は、サントラ新人コーラスグループ枠。テンダーロニって言葉は、マイケル・ジャクソンやボビー・ブラウンの曲にも登場するお馴染みのスラングで、おおざっぱに言うと”若い女の子”って意味。もともとはインスタントのマカロニが語源。そんなテンダーロニはハワイ出身の女の子4人組、みんな顔似てるなーと思ったら兄弟とか従妹とかの親族グループだった。プロデュースは当然ベイビーフェイスだけど、残念ながらブレイクせず。こんなツワモノばっかりの女性コーラスグループが収録されてるアルバムに入れちゃったらまあそうなるわな。
イントロで長々としゃべってるジャーメイン・デュプリが、手塩に掛けて育ててたエクスケイプの⑧。サントラにたくさん参加してるイメージがあるグループで、この年は映画「ラブ・ジョーンズ」にも「In the Rain」って曲を提供してる。この頃からメンバーが太り始めて、セカンドアルバムのジャケットの面影がだんだんなくなっていった。そのセカンドアルバムに収録されてる、ジョーンズ・ガールズのカバー曲「Who Can I Run To」は最高に泣ける(エクスケイプに触れる度に言ってる)。
そして⑫で登場するのはアン・ヴォーグの姐さんたち、ベイビーフェイスお得意の素敵な三連バラードの曲で参加。似たような曲たくさんあるんだけど、やっぱりいい曲書くなーなんて思う。ドーン・ロビンソンが脱退して3人組になった頃で、ファンとしてはちょっと寂しかった思い出。コーラスグループのブームが始まる前から活躍してた彼女たち、まだまだ現役で2021年の映画「星の王子ニューヨークへ行く2」にもカメオ出演してて嬉しかった。ドーン姉さま戻ってこないかしら。
⑤Don’t Stop What You’re Doing ⑨In Due time
ヒップホップのアーティストは2組と少なめ
今やスーパーセレブとなったパフ・ダディ(2018年のデータだけどフォーブスの「アメリカで最も裕福なセレブリティ」で第8位)、そんな彼も最初はアップ・タウン・レコードの一社員だった。この頃はヒップホップ界のベイビーフェイスなんて呼ばれてて、奇しくもそのベイビーフェイスが手掛けるサントラに参加。このサントラのリリースとほぼ同時期に、ショーン・パフィ・コムズからパフ・ダディに名前を変えて、自身もファーストアルバム「No Way Out」をリリースしてる。そのアルバムにも収録されてる⑤は、ヤーブロウ&ピープルズの「Don’t Stop The Music」をサンプリングしてて、サビを歌ってるのはケリー・プライス(フィーチャリング表記はなかったけどクレジットにはちゃんと記載されてる)。
LaFaceの本拠地アトランタ出身で、高校の同級生だったアンドレ3000とビッグ・ボーイが結成したアウトキャスト。4枚目のアルバム「Stankonia」で大ブレイクするのは、もう少し後のこと。彼らの作品にはプロデューサーチームのオーガナイズド・ノイズが関わることが多いんだけど、⑨では自分たちでソングライティングとプロデュースを行ってる。渋めのトラックがいつもと違って素敵、客演のシーローの声も効いてる。アウトキャストらしら満載のミュージックビデオもあるんだけど、やっぱりアンドレはカッコいいね。
⑩Slow Jam
メロウでスイートな極上カバー曲
1983年にミッドナイト・スターが発表したアルバム「No Parking On The Dance Floor」に収録されてた名曲を、モニカとアッシャーが超絶なコンビネーションと歌唱力でカバーした⑩。二人ともデビューしてからヒット曲に恵まれて勢いがあった頃、歌にもそれがよく表れててなんかキラキラしてる感じがする。この曲めっちゃ聴いてたなー、すごい良いカバーだと思う。実はその昔、ベイビーフェイスが所属してたバンドのディールとミッドナイト・スターが同じレーベルだったのがご縁で、ベイビーフェイスがミッドナイト・スターに提供した曲。ベイビーフェイスは同じレーベルの他のバンドにも度々曲を提供していて、そんな曲を集めた「Jewels Babyface’s Best Works On Solar」っていうベスト盤もある。
⑥We’re Not Making Love No More ⑪Boys and Girls
ベイビーフェイスと異色の組み合わせ
アズ・イエットの「Last Night」でも聴けるベイビーフェイスの渋めなアプローチの曲と、ドルゥー・ヒルの濃厚なボーカルが意外としっくりくる⑥。ライブで見たことあるけど、スローな曲なのにシスコがクルクル回りながら歌ってたり、みんなで振り付けを合わせたりしてた。ジョデシィみたいな雰囲気だけど彼らと違って、そういう伝統的なコーラスグループっぽいことするんだなーなんて思った(みんなで同じ振り付けをするジョデシィなんて見たことない)。
トニー・トニー・トニーをベイビーフェイスがプロデュースするなんて思ってもみなかった⑪、ベイビーフェイスの「Every Time I Close My Eyes」をラファエルがリミックスしたご縁で実現した様子(このリミックス好き)。70年代のソウルミュージックのマナーを大切にしてるトニーズと、90年代のブラックミュージックを牽引してたベイビーフェイスとでは相性悪そうな気もしたんだけど、高いスキルを持ってる二組にはいらん心配だった。ラップ入りのリミックスバージョンがトニーズのベスト盤に収録されてる(このリミックス雰囲気がまた良い)。後のラファエルのソロアルバムでデュエットするくらいだから、お互い何か通じるものを感じてたのかした。
⑬September
最後を締めくくるのはソウルクラシック
映画のパーティーシーンで流れてた記憶のあるアースの⑬、アルバムの雰囲気をぶち壊すくらいあのギターのフレーズって印象強いよね。アルバムに収録されてる曲たちと、年代がずれるとかコンセプトが合わないとかの理由で、この手の曲はサントラから外れることが多いんだけど、律儀に収録されたセプテンバー。映画に使われてたけど収録されてない曲は他にもたくさんあるのに、なぜセプテンバーだけ扱いが違うのかは謎。
最後に
A FEW GOOD MENっていうボーカルグループがいるんだけど、このサントラでどうしても触れておきたいアーティスト。実は映画で「Young Girl」「Have I Ever」と2曲も使われてるのに、なぜかサントラには収録されなかった不遇のグループ。Laface所属のグループで、しかも2曲ともベイビーフェイスが作った作品なのになんで?。セプテンバーを収録するくらいなら彼らを収録しなさいよと言いたくもなる。1994年のデビューアルバムが、版権問題で発売から10日後に回収されたという黒歴史まである彼ら。可哀そうなのでアルバムも紹介しておく。もしリイシューされることがあれば、彼らの作品も収録してくださいな。
ア・フュー・グッド・メンの回収されたというファーストアルバム(回収されたはずなのになぜか買えちゃう)
そのファーストアルバムの収録曲を差し替えて再リリースされたのがこちら
コメント