映画「ワイルド・ワイルド・ウエスト」について
インディペンデンス・デイやメン・イン・ブラックで、宇宙人から世界を守ってきたウィル・スミス。今回はマッドサイエンティストから西部開拓時代のアメリカを守る陸軍大尉の役、これまでを考えると急にスケールダウン。1960年代に放映されてたテレビシリーズが元になってる映画で、「馬に乗ったジェームズ・ボンド」がコンセプトらしい。
監督もプロデューサーも豪華で、制作費もかなり高額だったにも関わらず、興行的に大失敗(観たら分かるけど相当つまらない)。第20回ゴールデンラズベリー賞では8部門もノミネートされて、5部門の受賞という記録。マイケル・ベイが監督してたら、もっとノミネートされてたかもしれない。
ウィル・スミスの今回のバディはケヴィン・クライン、連邦保安官の役で名前はゴードン。、その二人が追うマッドサイエンティストのラブレスを演じるのはケネス・ブラナー(あのヒゲは自前なのかしら)。ゴードンは発明好きの女装上手だったり、ラブレスは蒸気で動く車椅子に乗ってたり、二人とも濃いめのキャラ設定。この二人が演じてるから観れるけど、どことなくスベってる感は否めない。
ヒロインのリタを演じたのはサルマ・ハエック。今でもキレイな女優さんで、少し前だけどインスタでスタイル抜群のビキニ姿を披露してた。このサルマさん、あのプリンスの楽曲「Te Amo Corazón 」(2006年のアルバム「3121」に収録)のミュージックビデオを監督してて、それがご縁でプリンスと親交があったみたい。プリンスも2009年のアルバム「MPLSoUND」で、サルマの娘のヴァレンティナの名前を冠した「Valentina」って曲を作ってるくらいの仲良し。ってか付き合ってたんじゃないの?
サウンドトラックについて
サントラのジャケットを見てみると、タイトルは”MUSIC INSPIRED BY THE MOTION PICTURE WILD WILD WEST”。そう、記載されるべき”MUSIC FROM THE MOTION PICTURE“の文字がない。つまり、劇中で使われてる曲はないってこと。もう映画なんて全然関係ないサントラになっちゃってる。映画のエンドクレジットも、音楽に関する部分がとても短かった記憶がある(そのエンドクレジットの時にウィルとエンリケの曲が流れてた)。
でもそんなことはお構いなく、発売後1週間でダブルプラチナに認定されるくらいサントラは大ヒット。アルバムジャケットには主人公二人と一緒にクモ型ロボットが写ってるんだけど、これいらなくない?もっとオシャレなジャケットならトリプルプラチナも夢じゃなかったかもよ。
収録曲の約半分に新人アーティストが参加してるけど、その中には今や俳優として活躍してるバウ・ワウ(ワイルド・スピードとかに出演してる)とか、翌年デビューして一気に人気者になるジル・スコットの名前もある。逆にビッグネームのコラボやベテランアーティストも参加してて、なかなか振り幅の広いアルバム。
映画音楽を担当したのはエルマー・バーンスタイン。スティーブ・マックイーンの「荒野の七人」や「大脱走」みたいな、超有名な映画の音楽に携わってる。50年代から活躍してる大御所で、ウエスタン映画ならこの人に任せようみたいな雰囲気はあったかもしれない。
トラックリスト
- WILD WILD WEST
Will Smith FEATURING Dru Hill & Kool Mo Dee - BAILAMOS
Enrique Iglesias - CONFUSED
BLACKstreet - KEEP IT MOVIN’
MC Lyte FEATURING Payne - GETTING CLOSER
Tatyana Ali FEATURING Kel Spencer - LUCKY DAY
Trā-Knox - BAD GUY ALWAYS DIE
Dr. Dre & Eminem - MAILMAN
Faith Evans - I’M WANTED
Kel Spencer FEATURING Richie Sambora - HERO
Breeze - CHOCOLATE FORM
Neutral - I SPARKLE
Slick Rick - THE BEST
Guy - 8 MINUTES TO SUNRISE
Common FEATURING Jill Scott - STICK UP
Lil Bow Wow FEATURING Jermaine Dupri
トラックリスト詳細
①WILD WILD WEST
タイトル曲でミュージックビデオも豪華
前述したラジー賞で「最低主題歌賞」を受賞してるのが、主人公演じるウィル・スミスの①。客演はドゥルー・ヒルとクール・モー・ディーで、スティーヴィー・ワンダーの「I Wish」をサンプリング。それからスクラッチで参加してるのがジャジー・ジェフってのが泣ける。なんでクール・モー・ディーなんだろうって思ってたら、自身も1988年に「Wild Wild West 」って同名の曲をリリースしてて、その曲のコーラスが①でも使われてる。で、そのコーラスに本家のクール・モー・ディーも参加したという流れ。ミュージックビデオには客演陣も当然参加してるんだけど、その他のゲストがスティーヴィー・ワンダーやベイビーフェイス、②で参加のエンリケ・イグレシアスや④で参加のMCライトなど超豪華。ちなみに監督はあのポール・ハンター。観たら分かる、これめっちゃお金かかってるやつ。
③CONFUSED ⑬THE BEST
サントラに積極的なテディ・ライリー
サントラでよく名前を見るテディ・ライリー、今回は自身の2大ユニットで参加。まずはロドニー・ジャーキンスと共同プロデュースした、ブラックストリートの③。ザ・クルセイダーズの「Covert Action」をサンプリング、しぶい選曲してくる。この頃のリードボーカルは誰なんだろう。正直、ブラックストリートの歴代リードボーカルを聴き分けられない。
そして待望のリユニオンを果たしたガイの⑬、メンバーはテディ・ライリーとアーロン・ホール、そしてダミアン・ホール。こう言ってはブラックストリートの面々に悪いけど、テディ・ライリーの音にはアーロンの声が一番合う。同じ1999年にブラックストリートの3枚目のアルバム「Finally 」、2000年にはガイの3枚目のアルバム「Guy III」を立て続けにリリースしてたテディ。当時は相当忙しかっただろうな。
②BAILAMOS ⑧MAILMAN
正統派なボーカルソング
フリオ・イグレシアスの息子で、なんて説明はもはや不要なくらいステータスを確立してたエンリケ・イグレシアスの②。「世界で最も売れているスペイン人アーティスト」って言われてたりするけど、実はパパの売り上げには遠く及ばない。とは言えパパと同様に日本でも人気のアーティスト、この曲も西城秀樹がカバーしてるくらい。ラテン系と言えばこの頃はリッキー・マーティンも人気で、「Livin’ la Vida Loca」も1999年の曲。
バッド・ボーイ・レコーズの歌姫、フェイス・エヴァンスの⑧。R・ケリーのプロデュースなんて珍しい、なんか異色の取り合わせ。手を抜いて作ったんじゃないかと思うくらいチープなトラックだけど、そこはフェイスの底力で聴けちゃうのがすごい。タイトルが郵便配達員ってのが何でなのか気になるけど、国内盤のライナノーツには歌詞が割愛されてて分からないまま。
⑦BAD GUY ALWAYS DIE ⑮STICK UP
師匠と弟子によるコラボ
まずはDr.ドレーとエミネムの⑦。この時期のドレーはデス・ロウを脱退して、アフターマス・エンターテインメントを立ち上げて苦労してた頃。で、そのアフターマスからデビューしていきなり大ヒットを飛ばしたのがエミネム、当然エイトマイルの前ね。良いアーティストに恵まれレーベルが救われたドレーと、良いプロデューサーに恵まれデビューが上手くいったエミネム。そんな勢いのあった二人のコラボ、今見てもレア度が高い。
そんな第二のドレー&エミネムになれるか、といったところのリル・バウ・ワウとジャーメイン・デュプリの⑮。結果はそうはなれなかったけど、名付け親のスヌープ・ドッグもフィーチャーしたりして結構成功したペア。「Just The Way I Like It」がサンプル元ってクレジットされてるけど、正しくは「Just The Way You Like It」。ジャム&ルイスが作ったS.O.S.バンドの曲ね。
⑤GETTING CLOSER ⑨I’M WANTED
2曲も参加してるけどケル・スペンサーって誰?
このアルバムでお披露目されたケル・スペンサー、実はウィル・スミスが見つけてきたアーティスト。ソングライターとして才能を発揮してて、ウィル・スミスの売れた曲にはケル・スペンサーとの共作が多い。海外ドラマ「ベルエアのフレッシュ・プリンス」でウィル・スミスと共演してたタチアナ・アリの曲に客演した⑤、もちろんソングライターとしても参加。プロデュースはソウルショック&カーリンでアルバム中最もポップな曲、タチアナの声もカワイイ。
あのボン・ジョヴィのギタリスト、リッチー・サンボラが客演してる本人名義の⑨。なんでリッチー?と思ったら、サンプリングされてる曲がボン・ジョヴィの「Wanted Dead or Alive」だから、かな。トラックで使われてるあのリフのギターを弾いてるのが多分リッチーなんだろうけど、音小さすぎない?私の音響環境が悪いわけじゃないと思う。なんかリッチーに申し訳ない気分になる。
④KEEP IT MOVIN’ ⑫I SPARKLE ⑭8 MINUTES TO SUNRISE
素敵なコラボやベテランも参加のヒップホップ勢
フィメールラッパーの第一人者でサントラにも度々登場するMCライト、今回はティム&ボブのプロデュースで参加した④。客演はモニカ・ペイン、以前はテリー&モニカってデュオで活躍してたアーティスト(LLクールJの「Loungin 」のコーラスは彼女たち)。この曲で使われてるチキチキビートって大流行してたよね、日本でも色んなアーティストの曲で聴いた。この頃ですでにデビューしてから10年以上のキャリアがあったMCライト、ベテラン勢っていってもいいかも。
MCライト以上にキャリアのあるスリック・リックの⑫、ビートボックスのパイオニアでレジェンドラッパーのダグ・E・フレッシュと一緒に活躍してたゲット・フレッシュ・クルーのメンバーという輝かしい経歴の方。プロデューサーのラージ・プロフェッサーも90年代初頭の東海岸のグループ、メイン・ソースのメンバー。ヒップホップ・ゴールデンエイジのお二人、こういうオールド・スクールなトラックが聴けて嬉しかった思い出。
後に名作「Like Water for Chocolate」を発表して、ソウルクエリアンズというクリエイティヴ集団の名声を轟かせることになるコモンの⑭。今回のプロデューサーは、コモンとの相性は良さげなアンドレ・ハリス。彼はジャジー・ジェフが作ったチーム、ア・タッチ・オブ・ジャズの一員。この曲がご縁なのか分からないけど、客演してるジル・スコットのプロデューサーとして長きにわたって携わることになる。
⑥LUCKY DAY ⑩HERO ⑪CHOCOLATE FORM
新人アーティストのお披露目ソング
ラッキーデイというタイトルとは裏腹にマイナーな曲調の⑥。アーティストのトラ・ノックスは、ウィル・スミスの「Black Suits Comin’ (Nod Ya Head)」にコーラスで参加したりしたけどアルバムは作られなかったみたい。ジョデシィやドルゥー・ヒルみたいな熱唱系のコーラスグループっぽいね。後にデスチャの「Survivor」を書いて名を馳せるアンソニー・デントがソングライターとプロデューサーで参加。
聴いた感じはソロの女性ボーカルっぽいブリーズの⑩、90年代に活躍したグループのサムシン・フォー・ザ・ピープルがプロデューサー。ブラジルのギタリスト、ボラ・セチの「Bettina」(名曲!)をサンプリングしててカッコいい。ギターを弾いているのは、マーロン・マクレーン(ファンクバンドのプレジャーに在籍してたギタリスト)。渋い感じの曲だけど可愛い系のブリーズの声(コリーヌ・ベイリー・レイと似てない?)とも意外と合う。
最後はニュートラルの⑪、男女混合のボーカルグループの様子。ボサノヴァの名曲、デサフィナードがサンプリングされてるみたいだけど全然分かんない。だってボサノヴァ感なんて微塵も感じない曲なんだもの。ソングライティングでクレジットされてるエリック・ロバーソン(⑥でも参加してる)も、プロデューサーのカーヴィン・ハギンスとキース・ペルツァーも全員前述したタッチ・オブ・ジャズの所属。実はアルバムの半分くらいの曲にウィル・スミス系列のアーティストが絡んでたのね。
最後に
ふたを開けてみたらネームバリューのあるアーティストを看板にした、ウィル・スミスの息のかかったアーティストと元相方ジャジー・ジェフのプロダクションチーム、ア・タッチ・オブ・ジャズのコラボアルバムみたいな内容。サントラにかこつけたプロモーションツールと言えば味気ないけど、2000年代に活躍する人たちがたくさん生まれたのも事実。カッコいい曲も多いし、色んな意味で大成功したアルバムだったと思う。リイシューされるなら、クモ型ロボットがいないジャケットでお願いしたい。
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