映画「バッド・ボーイズ」について
マイケル・ベイとドン・シンプソン、ジェリー・ブラッカイマーというヒットメーカートリオが初めて顔を合わせた映画がバッド・ボーイズ。この作品で長編映画を初めて監督したマイケル・ベイは、デビュー作でいきなり有名監督の仲間入り。それまでコメディ感の強い役ばっかり演じてたウィル・スミスとマーティン・ローレンスの二人も、この映画で役者としてのイメージが一新。
批評家からの評価はいつも最悪のマイケル・ベイだけど、商業的には成功してる作品が多い。バッド・ボーイズもその一つで、評価は低いけど全世界で大ヒット。続編も作られるほどで2003年に2作目、そして1作目から25年も経った2020年に3作目が公開されてる。ウィルの平手打ち事件のせいで頓挫してたみたいだけど、4作目も近々公開予定らしい。3作目のタイトルが「バッドボーイズ・フォー・ライフ」なんだけど、4作目が作られるならそっちにつけられるべきタイトルだったと思う。
いわゆるバディコップものの映画で、これまでにも「48時間」や「ビバリーヒルズ・コップ」、「リーサル・ウェポン」とかで描かれてきてるようなお話。でもブラックムービー的に見ると、ちょっと違うところがある。それは黒人のバディが白人じゃなくて、同じ黒人だってところ。スパイク・リーや後に続いた黒人映画監督たちのおかげで、映画業界における黒人の立場が80年代とはかなり違う。
出演者の中で個人的に触れておきたいのは、ヒロインのティア・レオーニ。とってもキレイな女優さんで、身長もそこそこ高い(175センチ)。ウィル・スミスとマーティン・ローレンスと一緒に並んでるジャケットを見ても引けを取らない感じが素敵。この作品で評価されて、次の出演映画「ディープ・インパクト」で主役を演じることになったみたい。「ジュラシック・パークIII」のお母さん役も好き。彼女にちなんで命名された小惑星があるらしい。
サウンドトラックについて
サントラはプラチナアルバムに認定されるくらい大ヒット。チャートアクションは全米で26位、R&Bは13位。映画のヒットに引っ張られて、世界中のチャートでも上位に食い込む健闘を見せる。
「Shy Guy」の他に、ジョンB.の「Someone to Love」やキース・マーティンの「Never Find Someone Like You」がシングルヒット(共にデビュー曲)。この時代はバラード曲のヒットが多かった記憶。マライア・キャリーとボーイズ・Ⅱ・メンの「One Sweet Day」がずっとチャート1位だったとか、R.ケリーがエロいヒット曲を連発してたのもこの頃。
収録されてる曲のジャンルは多種多様。クラブのシーンで使われてたインダストリアル系ロックの曲が少ないとか、映画の音楽監督を務めたマーク・マンシーナの曲が少ないとか(2007年に数量限定でスコア盤がリリースされてた)、ご意見は色々あるようだけど、新曲あり既存曲のリミックスありでサントラの醍醐味は十分味わえるアルバム。
トラックリスト
- SHY GUY
DIANA KING - SO MANY WAY (BAD BOYS VERSION)
WARREN G - FIVE O, FIVE O
69 BOYZ FEATURING K-NOCK - BOOM BOOM BOOM
JUSTER - ME AGAINST THE WORLD FEATURING DRAMACYDAL
2PAC - SOMEONE TO LOVE
JON B. FEATURING BABYFACE - I’VE GOT A LITTLE SOMETHING FOR YOU (RADIO VERSION)
MN8 - NEVER FIND SOMEONE LIKE YOU
KEITH MARTIN - CALL THE POLICE (MARVEL/BONZAI MIX)
INI KAMOZE - DA B SIDE
DA BRAT FEATURING THE NOTORIOUS B.I.G. - WORK ME SLOW
XSCAPE - CLOUDS OF SMOKE
CALL O’ DA WILD - JUKE-JOINT JEZEBEL
KMFDM - BAD BOYS REPLY (’95)
INNER CIRCLE FEATURING TEK - THEME FROM BAD BOYS
MARK MANCINA
トラックリスト詳細
①SHY GUY
世界中で大ヒットしたシングル
サントラのリードシングルとしてだけじゃなく、本人のファーストアルバムのリードシングルとしても発売されたダイアナ・キングの①。本当かどうか分からないけど、曲を書き上げるのに10分しかかからなかったそう。そんな曲だけど全世界で大ヒット、日本でも色んな場所で流れてた。今だから改めて聴けるけど、当時だったらちょっとお腹いっぱいで聴きたくないレベルだった。ミュージックビデオは本人のアルバム用とサントラ用の2種類あって、サントラ用はマイケル・ベイが撮影してる。本人のアルバム用のミュージックビデオは、色んな垂幕の前でダイアナ・キングが歌ってる内容。ロケに行く予算がなかったのはわかるけど、でもあれはないわー。これじゃマズイと思ったのか、サントラ用のはウィルとマーティンも出演して、段違いのクオリティに仕上がってる。
⑭BAD BOYS REPLY (’95)
映画の随所で使われてるタイトル曲のリミックス
事あるごとに劇中で歌われたり流れたりするインナー・サークルの⑭。映画で流れてるのは多分オリジナルの方で、サントラに収録されてるのはリメイクヴァージョン。ラガマフィンをフィーチャリングして、トラックもソフィスティケイテッドされてる(80年代~90年代初頭ってこの言い方しょっちゅうされてた記憶、今じゃ微塵もない)。もともとは、今も続いているアメリカの人気テレビシリーズ「COPS」のオープニングテーマ。まあ、あれだけバッドボーイズバッドボーイズって歌われたら映画に使いたくもなる。
⑥SOMEONE TO LOVE ⑧NEVER FIND SOMEONE LIKE YOU
キレイなバラードでデビューを飾ったアーティスト
歌い方も作風もベイビーフェイスに影響受けまくってるジョン・Bの⑥、けなしてるように見えるかもしれないけど私は大ファン。この曲はベイビーフェイスとデュエットしてて、どっちがどっちの声なのか聞き分けるのがなかなか難しい。しかも曲を作ったのもプロデュースしたのもベイビーフェイスだから、もうベイビーフェイスの曲みたいに聞こえる(しつこいかもだけど大ファンだから)。
幼馴染のジョニー・ギルやMC・ハマーのツアーで、バックコーラスを務めてたこともあるキース・マーティンの⑧。ボーイズ・Ⅱ・メンのマイケルとのご縁でデビューすることになったらしい。キラキラしたキーボードの音が時代を感じさせる、超ベタベタのバラード(ちなみに私は大好物)。ミュージックビデオを見てると、女性が馬と一緒に写ってるシーンがあるんだけど、他の曲でもあの演出をたまに見る。あれって何なんだろう、女性と馬、何かの比喩的表現なのかしら。
②SO MANY WAY (BAD BOYS VERSION) ⑤ME AGAINST THE WORLD
西海岸からも当然参加
映画の舞台はマイアミだけど、当時の人気を考えたら西海岸のヒップホップは外せない。まずはウォーレン・Gの②、大ヒットしたファーストアルバム「Regulate… G Funk Era」に収録されてた曲のリミックスを収録。こう言ってはなんだけど、オリジナルの方が全然好き。映画のシーンを随所に使ってるミュージックビデオがあるんだけど、映像を見ながら”Sure they’re illegal”のサビを聴くとなんか妙にしっくりくる。
サントラとほぼ同じタイミングでリリースされた、当時服役中だった2パックのサードアルバム(今でも高く評価されてる名盤)に収録されてるアルバムタイトル曲の⑤。ミニー・リパートンの「Inside My Love」とアイザック・ヘイズの「Walk on By」がサンプリングされてるけど分かりにくい。
⑦I’VE GOT A LITTLE SOMETHING FOR YOU (RADIO VERSION) ⑪WORK ME SLOW
コーラスグループ枠もちゃんとある
イギリスのグループでデビューしたてだったMN8の⑦、サントラにはつきものの新人コーラスグループのお披露目って感じで参加。95年でもまだ生き残ってたニュージャックスイングで、本国イギリスをはじめヨーロッパでは大ヒットした曲。デビューアルバムもめっちゃ売れてた、CDショップでよく目にしてた記憶がある(数年後に中古CDショップでもよく目にした記憶もある)。当時はEYC (Express Yourself Clearly)とか、アイドル寄りのR&Bグループも人気だった。
ファーストアルバムがヒットして、R.ケリーとかソルト・ン・ぺパのオープニングアクトを務めてた女性コーラスグループのエクスケイプ。サントラにも度々参加してて、当時の人気をうかがえる。⑪はダリル・シモンズがプロデュース、彼女たちを発掘したジャーメイン・デュプリも共同プロデューサーとしてクレジット。彼女たちのセカンドアルバム「Off the Hook」(泣ける超名曲カバー「Who Can I Run To」が聴きたくて買った)にも収録されてる。
③FIVE O, FIVE O
マイアミの映画だしマイアミサウンドは外せない
69ボーイズによる③、これぞマイアミベースって感じの楽曲。それもそのはず、クワッド・シティ・DJsとか95サウスのプロディーサーのC.C.レモンヘッドとジェイ・スキーが絡んでる。こういうサウンドって需要があるのか、69ボーイズは「Sunset Park」や「Dr. Dolittle」のサントラにも参加してる。
⑩DA B SIDE ⑫CLOUDS OF SMOKE
ヒットメーカーが送り出す新人アーティスト
⑪のエクスケイプを発掘したジャーメイン・デュプリが、クリス・クロスを通じて出会ったダ・ブラット。彼がプロデュースした94年のデビューアルバムは、プラチナ認定されるくらいヒットしてた。⑩も当然ジャーメイン・デュプリのプロデュースで、ノトーリアス・B.I.G.がフィーチャーされてる豪華な曲。パカパカ聞こえるパーカッションが気持ちいいトラックは、ギャップ・バンドの「Outstanding」をサンプリング。
サイプレス・ヒルのDJマグスがプロデュースした、コール・オ・ダ・ワイルドの⑫。残念ながら彼らのアルバムは制作されなかったけど、サイプレス・ヒルやDJマグスの別プロジェクトのソウル・アサシンズのアルバムにちらほら参加してる。元ネタアーティストとして大人気のグローバー・ワシントン・ジュニアから、「Hydra」と「Dolphin Dance」の2曲がサンプリングされてる。
④BOOM BOOM BOOM ⑬JUKE-JOINT JEZEBEL
ロック界隈から参加
サントラに1組はいる謎のアーティスト枠の④、誰なんだろう。プロデューサーのクレジットを見ても分からない。聴いた感じはレッチリとかレイジとかの、ファンクロックって感じ。全然情報ないけどカッコいい、この曲から⑤の2パックに続く流れも好き。
ドイツのハンブルクで結成された多国籍バンドのKMFDM、”Kein Mehrheit Für Die Mitleid”の略だそうな。このサントラに収録されてるオリジナルヴァージョンの他にメトロポリスリミックスってのがあって、そっちは映画「モータル・コンバット」のサントラに収録されてる。⑬は彼らをアメリカに知らしめた曲になったのに、フロントマンのコニエツコはこの曲が好きじゃないみたいでベスト盤からも外してる。
⑨CALL THE POLICE (MARVEL/BONZAI MIX)
レゲエとヒップホップのクロスオーバー
90年代によく見られたレゲエとR&Bやヒップホップとのクロスオーバー、この曲もGファンクみたいなヒップホップ寄りのレゲエナンバー。「Here Comes the Hotstepper」が大ヒットしたアイニ・カモーゼの、84年の曲をリミックスした⑨。この曲も86年の映画「Good To Go」のサントラに使われたことがあるらしく、今回で2度目のサントラ収録。なんかそんなパターン多いな、このサントラ。
⑮THEME FROM BAD BOYS
最後を締めくくるマーク・マンシーナ
グラミーの受賞歴もある映画作曲家で、映画の音楽監督も務めたマーク・マンシーナ。映画のメインテーマの⑮でサントラに参加してる。カッコいい曲で他の曲も聴きたくなる、後にスコア盤のアルバムがリリースされたのも分かる。全世界3000枚の限定リリースだったから、今更聴きたくてもおそらく聴けないだろうね。
最後に
映画のエンドクレジットをみると、「Nothing」「Angels」「Sweet Little Lass」がクラブのシーンで使われてたのに収録されなかった曲たち。これだけ色んなジャンルの曲が入ってるなら、この3曲だって入っても良さそうなのにね。権利の関係とかもありそうだけど、当時はブラックミュージックが全盛期だったから、そっち系のコンピですよーっていう印象を付けたかったのかもしれない。
実はこのアルバム、ソニーミュージックから「<聴くシネマ名作選>サウンドトラック1000」というシリーズでリイシューされてる。内容はそのままなんだけど、それでもやっぱり嬉しい。こんな風にサントラリイシューが盛り上がってくれると、上記のアルバム未収録曲を追加した「バッドボーイズ+3」みたいなタイトルでのリイシューも夢じゃないかも。
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