映画「3人のエンジェル」について
1995年に公開された「3人のエンジェル」は、ドラァグクイーンたちを主人公にした初のハリウッド映画。演じたのはウェズリー・スナイプスとパトリック・スウェイジ、ジョン・レグイザモの3人。アクション俳優として既にキャリアがあるのに、なんでドラァグクイーンの役なんてやるの?なんて声が上がったみたいだけど、ふたを開けてみれば三人とも絶賛の嵐。パトリック・スウェイジとジョン・レグイザモはゴールデングローブ賞の主演男優賞と助演男優賞にそれぞれノミネートされてた。
賞の話もさることながら、黒人俳優のウェズリー・スナイプスがドラァグクイーンの役を演じたことも実はすごいこと。スパイク・リーの「Do The Right Thing」以降、市民権を得たブラックムービーに、ドラッグや暴力以外を題材にしたストーリーの映画が登場するようになったのが90年代半ば。それまでの黒人俳優を取り巻く環境が変わっていって、色んな役を演じられるようになったのよね。
ニューヨークのドラァグクイーンコンテストで、同点優勝したヴィーダ(パトリック・スウェイジ)とノグジーマ(ウェズリー・スナイプス)。次の全米コンテストに出場するためにハリウッドへ向かうんだけど、優勝できなくて落ち込んでるチチ(ジョン・レグイザモ)をヴィーダはほっておけない。仕方なく航空券を売ってキャデラックを買い、三人でハリウッドへ向かうことにする。
道中に警官(クリス・ペン)とひと悶着あって逃走、その後不運にも車が故障。偶然通りかかった近くの町の若者に助けられるけど、修理が終わるまでその町で足止めされることになっちゃう。閉鎖的で何にもない町だけど、どうにかして楽しもうとする三人の自由でポジティブな振る舞いに、町の人たちはだんだん心を動かされていく。
でも嫌がらせしてくる輩が現れたり、DV被害を受けてる女性に出会ったりと色々問題が発生。揉めた警察官も三人を探してて、とうとう町にいることを突き止められてしまう。三人は無事にハリウッドに到着することができるのか、みたいなお話。変な曲がり方するおばあちゃんのくだりは、きっとみんな笑っちゃうはず。
映画を見てると、色んな人が唐突にさらっとカメオ出演しててビックリする。今のナオミ・キャンベルじゃなかった?とか、これってロビン・ウィリアムズだよね、みたいなのが飛び交う。映画のタイトルにもなってるジュリー・ニューマーも最後にしっかり登場する。
「TO WONG FOO, THANKS FOR EVERYTHING! JULIE NEWMAR」ってタイトルだけど、どんな意味があるのか調べてみたけど分かんなかった。実際にジュリー・ニューマーが言った言葉なのか、単に映画の中で作られた言葉なのか、ウォン・フーって誰よとか全然情報なかった。知ってる人がいたら教えて欲しい。
サウンドトラックについて
サントラは映画の内容に寄り添ってか、女性賛歌のような曲が多め。参加してるのも、何となく強いイメージがある女性アーティストが多いかな(マドンナとか参加してたら完璧だった)。R&B系のアルバムかと思いきや、四つ打ち多めのクラブ寄りなアルバムで、ベテランアーティストがそっち系のプロデューサーと組んでるのが面白い。
映画にはもっとたくさんの曲が使われているんだけど、サントラには11曲のみ収録。他の曲はカントリーだったりクラシックだったりするので、ダンスミュージック寄りのアルバムコンセプトと、ドラァグクイーンが主役の映画の雰囲気には合わないって判断だったのかな。まあ確かにそうかもしれないけど、でも彼らのアイコンのバーブラ・ストライサンドの曲は収録しておくべきだったんじゃない?
映画音楽を担当したのは、イギリスの女性作曲家レイチェル・ポートマン。ジョニー・デップが出演してた「ショコラ」やディズニー映画の「フェアリー・ゴッドマザー」とか、たくさんの映画音楽に携わってる。あえて起用したのか分からないけど、女性作曲家ってところが映画にちなんでるみたいで良い。
トラックリスト
- I AM THE BODY BEAUTIFUL
PERFORMED BY SALT-N-PEPA - FREE YOURSELF
PERFORMED BY CHAKA KHAN - TURN IT OUT
PERFORMED BY LABELLE
(PATTI LABELLE, NONA HENDRYX & SARAH DASH) - WHO TAUGH YOU HOW
PERFORMED BY CRYSTAL WATERS - SHE’S A LADY
PERFORMED BY TOM JONES - BRICK HOUSE
PERFORMED BY THE COMMODORES - NOBODY’S BODY
PERFORMED BY MONIFAH - DO WHAT YOU WANNA DO
PERFORMED BY CHARISSE ARRINGTON - HEY NOW (GIRLS JUST WANT TO HAVE FUN)
(SINGLE EDIT VERSION)
PERFORMED BY CYNDI LAUPER - OVER THE RAINBOW
PERFORMED BY PATTI LABELLE - TO WONG FOO SUITE
A. When I Get To Hollywood
B. A Day With The Girls
C. Moms Mabley
D. Stand Up
PERFORMED BY RACHEL PORTMAN
トラックリスト詳細
③TURN IT OUT ⑩OVER THE RAINBOW
再結成したラベルとその中心メンバーのパティ・ラベル
クリスティーナ・アギレラやマイア(可愛くて大好き)、ピンク、リル・キムがコラボして、映画「ムーラン・ルージュ」で使用された大ヒットカバー曲「レディ・マーマレイド」、そのオリジナルを歌っていたのがラベル。1976年に解散してから19年ぶりにリリースされた③、シングルカットされて全米ダンスチャートで見事1位を獲得。プロデュースはシェップ・ペティボーンで、マドンナのヴォーグのプロデューサーとしても有名。
そのラベルの看板シンガー、パティ・ラベルがソロでも参加した⑩。ライナノーツによると、92年のライブアルバムからのテイク。パティ・ラベルのお気に入りのナンバーらしく、他のライブアルバムでも歌われてたりする。LGBTの人達が象徴としてるレインボーフラッグって、この「Over The Rainbow」が元になってるなんて話がある。オリジナルを歌ったジュディ・ガーランドも人気のアイコンだし、この曲をアルバムに収録したのは実は大きな意味があると思う。でもライブヴァージョンである必要はなかった気がする。
①I AM THE BODY BEAUTIFUL
サントラでは常連の女性ラップグループ
女性ラッパーってだいたい強そうなイメージあるけど、その元祖と言ってもいいソルト・ン・ぺパの①。95年はアメリカン・ミュージック・アワードはじめ、色んな賞にノミネートされて(グラミーの最優秀ラップパフォーマンスは受賞してる)、ノリノリだったソルト・ン・ぺパ。アン・ヴォーグとコラボした「Whatta Man」とか「Shoop」が大ヒットしてたのもこの頃。
②FREE YOURSELF ⑨HEY NOW (GIRLS JUST WANT TO HAVE FUN)(SINGLE EDIT VERSION)
80年代を盛り上げたディーヴァたち
80年代は女性アーティストが席巻してた時代。必ず名前が出てくる代表的なアーティストと言えば、マドンナとシンディ・ローパー。そのシンディのデビュー曲「Girls Just Want to Have Fun」のリメイクで、色んな国で大ヒットしたのが⑨。原曲はフェミニスト賛歌として取り上げられることも多く、またシンディ自身も女性からの支持が熱いアーティストのひとり。この映画には必要な曲とアーティストだね。
同じく80年代を盛り上げた女性アーティストのチャカ・カーン。ルーファス時代からヒット曲は数知れず、色んな賞にノミネート&受賞も多数。R&Bフィールドで活躍してきた彼女が、ハウス系プロデューサーのスティーブ・シルク・ハーレーを迎えた②。何でも歌えちゃうチャカ、この曲でもジョセリン・ブラウンに負けず劣らずパワフルな歌声を披露してる。
④WHO TAUGH YOU HOW
唯一のハウス系アーティスト
これだけダンスミュージック寄りなアルバムなのに、そっち系のアーティストは④のクリスタル・ウォーターズだけ。一発屋のイメージ(正確には二発屋)があるけど、今も現役のシンガー。アルバムは3枚しかないけど、シングルは時々リリースしてる。今聴いてもカッコいい「Gypsy Woman」と「100% Pure Love」をプロデュースした、ザ・ベースメント・ボーイズがクリスタル・ウォーターズと共同でこの曲をプロデュースしてる。
⑤SHE’S A LADY ⑥BRICK HOUSE
男性アーティストも参加
60年代から活躍してる超ベテランアーティストのトム・ジョーンズ。94年に発表したアルバム「The Lead and How to Swing It」(邦題は「快楽天国」、なんで?)に収録されてる「If I Only Knew」(邦題は「恋はメキ・メキ」、曲を聴いたことがある人なら納得)が大ヒットして、再ブレイク(って言ったら失礼かもしれない)してた。ポール・アンカの曲を、ジュニア・ヴァスケスのプロデュースでカバーした⑤。なかなかの力技だなと思ったけど、意外とハウスとの相性はいいかもしれないトムおじさん。この人も何でも歌えるもんね。
70年代のソウルクラシックから、コモドアーズの⑥が収録されてる。何でこの曲なのって話だけど、作者のライオネル・リッチー曰く、ブリック・ハウス(レンガの家)=たくましい体格の女性、って意味らしい。なるほど、映画にはぴったりの曲だわ。
⑦NOBODY’S BODY ⑧DO WHAT YOU WANNA DO
サントラ新人枠は2曲
ヘヴィー・D がずっと面倒みてたモニファの⑦、当然この曲もヘヴィー・Dがソングライティングとプロデュースを担当。ソウル・フォー・リアルもそうだけど、ヘヴィー・Dって良い新人見つけて良い曲書くよね。1枚目と2枚目のアルバムはヘヴィー・D、3枚目はテディ・ライリーが主なプロデューサーという布陣のおかげで、90年代はとても活躍してたイメージがある。
モニファほどブレイクしなかったチャリシー・アリントンの⑧、ファーストシングルの「Down With This」はそこそこヒットしたけどアルバム1枚だけしかリリース出来なかった不遇なシンガー。でもインスタグラムを見ると、今でも歌ってるみたい。この曲のプロデューサーは②も担当したスティーブ・シルク・ハーレー。
⑪TO WONG FOO SUITE A. When I Get To Hollywood B. A Day With The Girls C. Moms Mabley D. Stand Up
映画音楽を担当したレイチェル・ポートマン
アルバムの最後を締めくくるのは、レイチェル・ポートマンの組曲⑪。サントラの最後を映画音楽を担当した作曲家の作品で、というよくあるやつかーなんて思ったけど違った。アルバムをしっかり締めてくれる役目を果たすインスト、⑩のパティ・ラベルのオーバー・ザ・レインボーからの流れがとっても良い。
最後に
パッと聴きだと単なるパーティアルバムみたいな印象で終わっちゃうけど、曲やアーティストを深掘りしてみたら実は奥深いアルバムなんだと知る。映画のコンセプトアルバムとしてとても質が高いんじゃないかと個人的には思ってる。くどいようだけどバーブラ・ストライサンドの曲とかも収録して、完全版ってカタチのリイシューをお願いしたい。
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