映画「ニュー・ジャック・シティ」について
1991年に公開されたニュー・ジャック・シティは、実在した麻薬王の話をベースにした映画で、監督はマリオ・ヴァン・ピーブルズ。レジェンドとして崇め奉られている、70年代に活躍した映画監督メルヴィン・ヴァン・ピーブルズの息子で、テレビや映画で俳優として活躍した後、本作で監督デビューを果たす。自身も役者として刑事たちの上司役で出演してて、なかなかイケてる。
麻薬王ニノ・ブラウンをウェズリー・スナイプス、それを追う刑事スコッティをラッパーのアイス-Tが演じたけど、どう見てもアイス-Tの方がギャング感強め。キャスティングの是非はさておき、映画は「羊たちの沈黙」に続く2位の興行成績を記録、ウェズリー・スナイプスは一躍スターの仲間入り。
そんな大ヒットの裏で、過剰に売られたプレミアショー(有料の試写会)のチケットのせいで映画を見られなかった人たち1000人以上が暴動を起こしたり、映画に触発された人たちが館内で発砲事件を起こして死者まで出る騒ぎになったり、色々と物議を醸した模様。
サントラに参加しているアーティストが何組か映画にカメオ出演してて、ブラックミュージックファンとしては嬉しい。トゥループとレヴァートが生コーラスを披露してたり、サントラには参加してないけどパブリック・エネミーのフレイヴァー・フレイヴがクラブのDJ役でいい雰囲気を出してる。
サウンドトラックについて
サントラはR&Bチャートで8週間連続の1位という輝かしい記録。全米チャートでも最高順位2位まで上昇し、プラチナアルバムに認定されるほどの大ヒット。6曲もシングルとしてリリースされて(①②④⑥⑦⑧)、すべてがR&Bチャート100位内にランクインしてる。中には全米チャートにもランクインした曲もあった(ブラックミュージックにとって当時はなかなか難しいことだった)。
このアルバムがきっかけで「サントラ=売れる」の構図がレコード会社に出来上がったようで、以降多くのブラックムービーのサントラがリリースされ90年代のサントラブームが勃発。さらに、アルバムだけの限定ユニットやコラボ、および新人コーラスグループのデビュー枠、というサントラの2大セオリーを生み出したのもこのアルバムの大きな功績。
映画音楽を担当したのは、フランスのジャズピアニストのミシェル・コロンビエ。最初はフランス映画を主に手掛けてたけど、80年代あたりからアメリカ映画にも携わるようになったみたい。数々の映画音楽も担当したレジェンド音楽家で、プリンスのあのパープル・レインや、グレゴリー・ハインツのホワイト・ナイツとかも彼の作品。
トラックリスト
- New Jack Hustler (Nino’s Theme)
Performed by Ice-T - I’m Dreamin’
Performed by Christopher Williams - New Jack City
Performed by Guy - I’m Still Waiting
Performed by Johnny Gill - (There You Go) Tellin’ Me No Again
Performed by Keith Sweat - Facts Of Life
Performed by Danny Madden - For The Love Of Money/Living For The City (Medley)
Performed by Troop/Levert Featuring Queen Latifah - I Wanna Sex You Up
Performed by Color Me Badd - Lyric 2 The Rhythm
Performed by Essence - Get It Together (Black Is A Force)
Performed by F.S.Effect - In The Dust
Performed by 2 Live Crew
トラックリスト詳細
③New Jack City
このグループが参加しないわけにはいかない
“NEW JACK CITY”という名の映画なのだから、”NEW JACK SWING”の創始者テディー・ライリー率いるガイがサントラに参加するのは至極当然、タイトルもズバリな③。もしニュージャックスウィングが生まれていなかったら、別のタイトルがつけられた映画になっていたかもしれない。映画にもカメオ出演している彼ら、クラブのシーンで派手な衣装を着てこの曲を披露。ガイが提供したサントラ曲にはよくあることなんだけど、すごくカッコいいのにオリジナルアルバムやベストには収録されていない。
⑧I Wanna Sex You Up
新人アーティストながら世界中で大ヒット
デビュー曲ながらR&Bチャートで1位、ポップチャートでも2位にランクインしたカラー・ミー・バッドの⑧。1992年のソウル・トレイン・ミュージック・アワードで年間最優秀楽曲賞まで受賞したんだからスゴイ。でも当時は彼らに関する情報が皆無。こんなに売れるとは誰も思っていなかったようで、レコード会社も慌ててアルバムを作らせたらしい。でもそんな付け焼刃とは思えないくらいクオリティの高いファーストアルバムが完成して大ヒット、シングルカットされた曲もたくさんあった。当然そのアルバムにも⑧は収録されているけど、メロディーが別バージョン。ロデューサーはドクター・フリーズ、あのベル・ビヴ・デヴォーの「Poison」を手掛けた人と言えば大ヒットも当然の結果だったかも。
④I’m Still Waiting ⑤(There You Go) Tellin’ Me No Again
当時のバラードシンガーと言えばこの人たち
90年発表のアルバム「Johnny Gill(邦題はロンリーナイト、ちなみにファーストアルバムのタイトルも同じJohnny Gillだからややこしい)」で、何でも歌えるぜってところを見せつけながら、ポストルーサー・ヴァンドロスなんて言われるくらいにまでバラディアー(最近は全然聞かなくなった言葉、当時もあんまり良い意味で使われてなかった気がする)として世界観を確立したジョニー・ギルの④。後半の爆発的に盛り上がっていく様は流石。
デビュー曲の「I Want Her」がニュージャックスウィング初のヒットとなったキース・スウェット、しばらくはその路線でヒットを飛ばしてたけど、この頃からあのヌメヌメした声質で歌うバラード路線に変更してた。本人は映画にも出演、結婚式のシーンで⑤を披露してる。でもこの曲、振り向いてくれない女性を口説き続けてるような内容で、結婚式には全く向いてない曲だと思うんだけど・・・。本人も腰をグリグリ回しながら歌ってて、間違ってるんじゃないかなーと思いながら見てた。
①New Jack Hustler (Nino’s Theme) ②I’m Dreamin’
映画にも出演してる俳優兼アーティスト
“ニノのテーマ”というサブタイトルにも関わらず、アイス-T演じるスコッティが犯人を追いかけてるシーンで流れてくる①(キース・スエットの時もそうだけど、ちょいちょいツッコミどころがある映画)。ちなみに追いかけられてる犯人は、若かりしクリス・ロック。主なサンプリングソースはボビー・ハンフリー「Jasper Country Man」と定番のジェームス・ブラウン「Blues And Pants」。
映画では結構重要な役どころのクリストファー・ウィリアムズによる②、スモーキーな声でルックスもイケてる。でもミュージックビデオは全然イケてない。とにかく映画のシーンが多くて、本人よりもアイス-Tの方が登場してるんじゃないかと思うくらい。カメオ出演してるアーティストの映像まで流れるから、一体誰のミュージックビデオなんだかわかんない。本人も映画に出演してるんだからそのあたりのシーンも使えばいいのに、謎の廃墟ビルみたいな中で歌う映像ばかり。なんであんな編集にしたんだろう。
⑨Lyric 2 The Rhythm ⑩Get It Together (Black Is A Force)
無名アーティストだけどプロデューサーが豪華
⑨をプロデュースしてるのは、なんとあのグランドマスター・フラッシュ御大。ご自身のユニット、グランドマスター・フラッシュ・アンド・ザ・フューリアス・ファイヴの「Freedom」をサンプリング。あのホーンの音が聞こえると否が応でも心が躍る。ホーンの音と一緒に聞こえてくるのはダグ・E・フレッシュ・アンド・ザ・ゲット・フレッシュ・クルーの「Show」からのサンプリングで、サビのメロディの元ネタはティーナ・マリー「I Need Your Lovin’」。どうでもいいけどこの時代って、なんちゃら・アンド・ザ・なんちゃら、っていうユニット名多かったよね。
⑩はアル・B・シュア!のプロデュース、当然のように曲には彼の声入り。プロデュースした曲に自分の声を入れたり、プロデュースしたアーティストに自分の名前を言わせたり、当時はそんなプロデューサーが結構いた気がする(テディ・ライリーもそうだった)。昔はこの曲の良さが分からなかったけど、今聴くとこういうミニマルなファンクもカッコいい。
⑥Facts Of Life
ソウル・II・ソウルが生んだグラウンドビート
当時ニュージャックスウィングと肩を並べるように流行っていたのがグラウンドビート、きっちりそこも押さえてるダニー・マッデンの⑥。クレジットに表記されてるカール・マッキントッシュは知る人ぞ知るイギリスのモッズグループ、ルース・エンズ(ルーズ・エンズって表記もある)のメンバー。ソウル・II・ソウルにいたキャロン・ウィラーのプロデューサーをしたこともある彼、イギリス産の正真正銘のグラウンドビートを聴かせてくれる。
⑦For The Love Of Money/Living For The City (Medley)
3組のアーティストによる豪華なコラボ
オープニングとエンディングで流れていたから映画のテーマソングと思われる⑦、「For The Love Of Money」と「Living For The City」ってタイトルからドンピシャ。メドレーってなってるけど「Living For The City」はコーラスの部分だけで尺もちょっと短い、歌ってるトゥループもこれじゃあかわいそうだ。一番目立ってたのはクイーン・ラティファだったから、クレジット表記はQueen Latifah Featuring Levert/Troop が正しいのかも。コーラスグループ好きとしては、トゥループとレヴァートのコーラスの掛け合いのあたりをもっと聴きたかった。ちなみに「For The Love Of Money」は、歌っているレヴァートのメンバーのジェラルドとショーンのレヴァート兄弟のお父さん、エディ・レヴァートがいるグループ、オージェイズの曲。「Living For The City」はスティーヴィー・ワンダーの曲で、共に70年代のソウルクラシックの名曲。
⑪In The Dust
シリアスな映画にまさかのキャスティング
最後に登場するのは2ライヴ・クルー、最初に聴いたときは別のアーティストかと思った。マイアミ感もなければエロい雰囲気もない、アルバムが猥褻物に認定されたグループとは思えない真面目なムードの⑪。メッセージ性もあって、映画の本編同様、警鐘を鳴らして締めくくる感じはとても良いのだけれど、2ライヴ・クルーである必要があったのかは今も疑問。
最後に
このCDのジャケットが好きで、広げるとA4よりも少し大きいくらいのポスターっぽい雰囲気になるタイプ。結構厚みのある紙で、それを折りたたんでるからCDケースに入れにくいし出しにくい。更に国内盤だとライナノーツが入ってるからもう大変。でもジャケットとか背表紙とかにどことなく世界観とかこだわりとかが見えて、やっぱりCDって良いなあなんて思っちゃう。このジャケットのままでリマスタリングしてリイシューしてくれないかなあ。
②で参加してるクリストファー・ウィリアムズのアルバムが、なんと生産限定盤でリイシュー!
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